いま、思うこと17 of 島燈社(TOTOSHA)

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いま、思うこと〜提言・直言・雑感〜

第17回/工藤茂
沖縄の闘い

 昨年の暮れ、安倍首相の靖国神社参拝でテレビや新聞が大騒ぎとなった翌日、沖縄では大きな動きがあった。それは、あたかも靖国参拝と示し合わせたかのようにも思えた。
 12月27日、沖縄県の仲井真弘多[ひろかず]知事は、米軍普天間基地移設にともなって日本政府が沖縄県に申請していた、名護市辺野古沿岸部の埋め立てを承認したのである。
 なにも年末に慌ただしく結論を出さなくてはならないはずのものではなかった。明けて1月19日に行われる名護市長選挙の結果を待ってからでもよかったはずなのだが、政府にとってはそれでは都合が悪かったようだ。
 名護市長選では移設反対派の現職、稲嶺進氏が再選される可能性が大きく、それが知事の判断に影響をおよぼすことを恐れ年内の結論を迫ったようである。官邸筋が知事に金を掴ませたとか、仲井真知事の徳洲会がらみの献金疑惑をネタに脅したとか、いくつか噂もあったが、どれも嘘か真か分からないような話でしかなかった。
 そもそも仲井真氏は、2010年11月の知事選挙告示直前に移設容認から反対に転じ、反対派の伊波洋一氏を抑えて当選した人物である。以来、ぼくにとって仲井真知事は油断のならない人物となった。しかしながら、ご本人は問われるごとに「県外移設」と答えているようなので、「頑張れ!」と少しは応援していたのだが、やはり最後には見事に裏切ってくれた。
 承認を表明する2日前の25日、仲井真知事は安倍首相から提示された沖縄振興策について、「驚くべき立派な内容を示してくれた。お礼を申し上げる」と大歓迎の様子をテレビカメラの前でみせてくれた。したがって承認のニュースを見ても、「やっぱりか……」と思う程度のものだったが、それでも大きな節目となる大事な結論には変わりはない。
 それにしても、前日の安倍首相の靖国参拝に続いての埋め立て承認と、騒がしい年末にうんざりした気分になった。かわいそうなのは沖縄の人々で、それからは連日、抗議集会の年の暮れと化した。

 そんな騒ぎを引きずったまま2014年は明けた。沖縄では名護市長選挙をひかえて慌ただしさを増してきていた8日、海外から突然朗報がもたらされた。
 仲井真知事の埋め立て申請承認と安倍政権の辺野古埋め立て着手の方針に対して、哲学者ノーム・チョムスキー氏、映画監督オリバー・ストーン氏など、アメリカ、カナダ、オーストラリアやヨーロッパの有識者たち29人が、「沖縄への新たな基地建設に反対し、平和と尊厳、人権、環境保護のために闘う県民を支持する」という声明を発表した。
 賛同に名を連ねたオリバー・ストーン、歴史家のピーター・カズニック両氏は、昨年8月、辺野古の反対派座り込みテントを訪れていたが、両氏と固い握手を交わした91歳の老人は、「我々との約束を守ってくれた。アッサミヨー[ありがとう]」と声をあげた(『琉球新報』2014年1月9日付)。その後、1月30日付『沖縄タイムス』によると、海外賛同著名人は103人にのぼったという。これは名護市長再選を目指す移設反対派の稲嶺氏にとっては強い追い風となった。
 そして1月19日の投票日を迎えた。午後8時になると同時に、テレビ画面上部に速報で稲嶺氏の当選確実が流れた。地方の市長選挙でのこういった速報は異例のことだろう。ぼくは思わずホッとした。自民党の石破幹事長は「基地の場所は政府が決める」と発言したうえ、地域振興に向けて500億円の基金を表明していたが、すべて裏目に出て有権者の反発を買ったようだ。名護の人々の心を金で買うことはできなかった。そもそも政府の人間ではない石破幹事長が、政府の立場でものを言うことが勘違いもはなはだしい。

 地元が移設反対の意思表示をしたのだから、これで容易には埋め立て工事の着工はできないだろうとホッとしたのも束の間、市長選のわずか2日後、沖縄防衛局は辺野古移設に向けて、代替施設の設計などの受注業者を募る入札を公告した。同時に安倍首相は「移設は基本計画にのっとってすすめていきたい」と語り、移設計画強行という強い意思を表明した。
 これに対し稲嶺市長は、「これだけの反対意見を無視して、強硬に進めるのは地方自治の侵害だ。民主主義でそんなことができるのか」と憤慨した。さらに、琉球新報の潮平芳和氏による「民主主義よ、死ぬな」という投稿がネット上に拡散していった。その末尾にはこうある。「沖縄から訴えたい。この国(日本)の民主主義よ、死ぬな。米国の民主主義よ、世界の民主主義よ、死ぬな」。胸を打つ言葉たちは英訳されて世界にひろまった。日本の民主主義はことごとく破壊され、沖縄だけにかろうじてその片鱗が残されたような感もある。
 3月7日付の『東京新聞』によると、稲嶺市長は十数人の弁護士からなる私的諮問機関「名護市長懇話会」を立ち上げ、市長権限の洗い出しに取りかかっている。ボーリング調査船の漁港使用、市有地での土砂採取や護岸工事の許可を出さないといったものが考えられるが、可能な限り抵抗する構えだ。それに対して、国や県は市の権限代行まで検討していて、そのために必要な新たな特別措置法の制定も選択肢に入れているという。
 ついでだが、名護市長選挙と同日に行われた福島県南相馬市長選挙では、原発事故に対する国や東電の責任を追及してきた現職の桜井勝延氏が再選され、こちらも市民の良識を示してくれた。その後桜井氏は、東京都知事選挙の際には細川護煕氏の応援に登場し、銀座4丁目の2万人の聴衆に感動的なスピーチを聞かせてくれた。

 そして、沖縄だけで報道された重要なニュースがあった。1月31日付『沖縄タイムス』によると、アメリカを訪問した沖縄選出の糸数慶子参議院議員(沖縄社会大衆党委員長)ら「辺野古新基地建設に反対する議員要請団」は、28日、ジム・ウェッブ元上院議員と会談したが、ウェッブ氏は「辺野古案は不要だ」と述べたうえで、「沖縄の人々に公平な解決をもたらすために、私が(米政府や議会との)橋渡し役になる」と協力を申し出たという。ウェッブ氏はグアムや沖縄をよく知る元海軍長官で、海兵隊からも信頼が厚く、「アジア太平洋政策を最も熟知する人物」(レビン上院軍事委員長)と評され、辺野古移設と在沖米海兵隊のグアム移転計画の見直しを盛り込んだ米国防権限法案を立案している。
 そのあと、ワシントンで糸数議員とともに記者会見にのぞんだピーター・カズニック氏は、「声明の賛同者は100人を超えた。沖縄の人々とさらに連携し、日米両政府が辺野古計画を中止するまで国際社会へ強く訴えていきたい」と強調した。このような記事は大手全国紙に掲載されることはなく、多くの国民は知ることはない。
 2月12日、稲嶺名護市長は沖縄を訪問したケネディ大使と面会し、大統領宛の移設反対の伝言を託した。大使のほうからは移設に応じるようにという要請はなかったという。さらに17日、稲嶺市長は東京の外国人記者クラブで会見を開き、「辺野古に強行しようということは選挙(反対派の私を選んだ名護市長選)の結果、民意を否定すること。民主主義にあってはならないこと」「世界各国からメディアのみなさんがおいでだと思います。民主主義のあり方について、あるべき姿についてぜひ議論を展開し、沖縄・名護の問題についても立ち向かってもらいたい」と訴え、多くの記者たちの賛同を得たという(『日刊ゲンダイ』2014年2月14日付)。また4月には、2012年に引き続き訪米して訴えるともいう。
 『琉球新報』『沖縄タイムス』の2紙は、先のケネディ大使の沖縄訪問にあわせ、英文の社説でもって稲嶺氏の動きに歩調をそろえたが、こちらはテレビや新聞でも大きく報じられた。

 このようなアメリカに直接訴えるという行動は以前から行ってきているもので、ほかに寄付を募ってアメリカの新聞に全面広告を出す「沖縄意見広告運動」もあって、こちらにはぼくもちょっぴり協力している。まだまだ目に見える反応があるわけではないが、今後も継続して行っていく必要がある。
 辺野古の問題に限らず、沖縄その他の米軍基地問題全体にいえることだが、日本政府にいくら訴えたところで解決する見込みはほとんどなく、時間と労力の無駄である。アメリカと直接交渉するしかない。沖縄県の場合は、アメリカと直接外交交渉のできる知事、あるいは全権特使を立てる必要があるし、ワシントンに沖縄県事務所を置くことも考えてもよいだろう。事務所を拠点として、沖縄のことなどほとんど知らないアメリカの政治家、市民たちに、あまりにも理不尽な現状を伝える必要がある。それはアメリカのみならず、ひろくヨーロッパ諸国をはじめ世界に訴え、いずれは日米地位協定の大幅改定まで漕ぎ着けなくてはならない。そして最終的には、日本に基地を置いても何もメリットがないとまでアメリカに認識させたいところである。長い闘いになることは間違いがない。
 もっともこれらを実現するためには、アメリカ、中国が歩み寄ることが手っ取り早い解決方法のはずだ。互いに譲歩をともなう新たな米中関係、枠組みによって東アジア、南シナ海の緊張状態がなくなれば、日本にある米軍基地など無用となるはずのものである。当然ではあるが、いま安倍政権が推し進めようとしている集団的自衛権など霧と化してしまうはずだ。

 仲井真沖縄県知事に対する県議会からの辞任要求決議は1月10日になされているのだが、なかなか辞任という動きもみえず、リコールはどうかと思って調べてみた。市町村長レベルのリコールならともかく、県知事となると沖縄県知事でも20万を超える署名が必要でなかなか困難なことらしく、日本では知事のリコールは一度も行われたことがないという。
 岡留安則氏の「東京・沖縄・アジア幻視行」(2月24日付)をのぞいてみたところ、沖縄県議会百条委員会での仲井真知事への追及について触れていて、「埋め立て承認後の仲井真知事はもはや精彩もなく、抜け殻のようで知事職を続ける能力があるとは思えない」と記している。もしかすると、沖縄県知事選挙は予定よりも早まる可能性もありそうだ。 (2014/03)


<2014.3.18>

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工藤 茂(くどう・しげる)

1952年秋田県生まれ。
フリーランス編集者。
15歳より50歳ごろまで、山登りに親しむ。ときおりインターネットサイト「三好まき子の山の文庫」に執筆しているが、このところサボり気味。

工藤茂さんの
<ある日の「山日記」から>が読めます。LinkIcon