いま、思うこと34 of 島燈社(TOTOSHA)

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いま、思うこと〜提言・直言・雑感〜

第34回/工藤茂
戦後70年全国調査に思う

 共同通信社はこの5〜7月にかけて、戦後70年にあたって国民の意識を探るため、郵送方式による全国調査を行った。ぼくは『東京新聞』(2015年7月22日付)の紙面で見たほか、気になることがあったので、いくつかの地方紙web版、共同通信社のwebサイト「47 NEWS」にも眼を通した。『東京新聞』では紹介記事のみで元になるデータはなかったが、ほかの新聞のweb版なども同様だった。
 じつは、『琉球新報』と『沖縄タイムス』の記事では日米同盟や米軍基地についての質問、結果が紹介されていたのだが、『東京新聞』にはそれがなく、配信元である「47 NEWS」にもなかった。また同じ質問にもかかわらず、『琉球新報』と『沖縄タイムス』では文言が微妙に異なっている。こんなことから元のデータを見たかったのだが、かなわなかった。

 そこで、沖縄2紙と『東京新聞』、「47 NEWS」の記事から、自分なりに質問項目をピックアップして並べてみた。
1.憲法について  このまま存続すべき60%、変えるべき32%
2.日米同盟関係  強化すべき20%、いまのままでよい66%、薄めるべき10%、解消すべき2%
3.仮に外国が日本を攻撃してきた際の対応  非暴力で抵抗する41%、武器を取って戦う29%、逃げる16%、降伏する7%
4.将来、日本を巻き込んだ大きな戦争が起きる可能性  大いにある12%、ある程度ある48%
5.安全保障上、沖縄に米軍基地は必要か 大いに必要17%、ある程度必要57%、あまり必要ない18%、まったく必要ない7%
6.普天間飛行場の移設問題  移設工事を中止し、県側と話し合うべき48%、政府の方針通りに移設をすすめるべき35%、県内への移設はやめるべき15%
7.中国との関係をどうするべきか  関係改善に努力すべき76%

 さて「47 NEWS」によれば、戦後50年を前に日本世論調査会が行った1994年7月の面接調査では、憲法について「このまま存続」55%、「変える」34%だったことから、「憲法や平和の重要性が再認識されている」としているが、異論はない。
 もっとも気になったのは日米同盟関係だった。「強化すべき」と現状維持を合わせて86%に達することに驚く。軍事同盟ということを理解しての回答かが気になるところだが、『沖縄タイムス』は「日米安保条約に基づく同盟関係について」としていて、共同通信社はどういう文言での質問したのであろうか。多くのひとは、これまでどおりアメリカに従っていれば大丈夫、米軍基地の受け入れもある程度はやむなしと考えていることになる。
 仮に外国が日本を攻撃してきた際の対応は、「非暴力で抵抗する」の41%をはじめ、武器をもたず、積極的に手も出さない覚悟ができているひとが6割をこえている。これは、抵抗はするが、場合によっては殺されてもやむなしと理解してよいのであろうか。これなら米軍に守ってもらう必要もないし、本来の専守防衛の自衛隊で充分ではないかと思う。
 ところで、「将来、日本を巻き込んだ大きな戦争が起きる可能性」の読み方は難しい。6割のひとはなんらかの戦闘行為はあるだろうとおぼろげながらも感じている。しかし「ある程度」という文言から大規模な戦争ではなく、具体的には太平洋戦争ほどのものは想定していないようにも受け取れる。これも米軍の助けは不要ということになりそうにも思えてくる。
 「安全保障上、沖縄に米軍基地は必要か」という質問も元のデータが気になるひとつである。「安全保障上、日本に米軍基地は必要か」という質問なら、「日米同盟関係」ですでに済んでいるということであろうか。つまり米軍基地は必要だが、沖縄におくのがよいと考えるひとが「大いに」「ある程度」を合わせて74%になると理解してよいのであろうか。
 ぼくなりにまとめてみると、日本人の多くはいまの憲法の存続を願っている。そして日本が大規模な戦争に巻き込まれることは想定していないが、自衛隊程度の軍備(日本政府は自衛隊を軍事組織とは認めていないが)と駐留米軍(米軍基地も)は必要と考えている。そのためには今後もアメリカに対して莫大な思いやり予算とともに、沖縄をはじめ多くの基地を提供し続けることを認めるが、普天間基地の辺野古移設だけは取りやめてほしい、ということであろうか。
 沖縄のひとには、現状程度の米軍基地の負担をどうにか堪えてもらえないだろうか。だから沖縄のひとびとの辺野古移設反対運動にも賛同するし、辺野古基金にも協力する。辺野古基金は4億円に達したようだが、その7割は本土からという。そこにはそんな心が見え隠れしていないだろうか。

 『東京新聞』(2015年7月19日付)に、「引き取る行動・大阪」(正式名称「沖縄差別を解消するために沖縄の米軍基地を大阪に引き取る行動」)という大阪の市民団体の活動が紹介されていた。辺野古移設問題で困っている普天間基地を大阪市内で引き取り、米軍基地問題を自分のこととして改めて考えようという運動である。
 この市民団体から講師として呼ばれた東京大学大学院教授高橋哲哉氏には、『沖縄の米軍基地 「県外移設」を考える』(集英社新書、2015年)という著書があることを、この記事から知った。高橋氏は「四年ほど前までは、日米安保をやめて全ての基地をなくすことが正しいと考えていた。だが、沖縄の声に耳を傾けていくうちに考えが変わった」という。
 どういうことかというと、内閣府や自衛隊の防衛問題の世論調査(2014年度)では、日米安保はやめるべきだという意見は1割未満、日米安保体制と自衛隊で日本の安全を守るという意見が84,6%にのぼるという。まさに共同通信社の調査と同様の数値が出てきた。
 そこで高橋氏は方針を改めた。「沖縄に米軍基地の七割が集中する。長年、過重な負担を強いてきた。そうした経緯を考えれば、全ての基地を県外に引き取るのが本来の姿だ。日米安保に反対する運動は基地を引き取りながらでも続けられる」と述べる。
 元沖縄県知事の大田昌秀氏は知事当時の1998年、「(日米)安保条約が重要ならば、全国民で(米軍基地を)負担すべきだ」と訴えた。また、翁長雄志[おなが たけし] 沖縄県知事は菅官房長官との会談で、「私の政治経歴から日米安保体制が重要だと理解しています」と述べ、普天間飛行場の県外への移設を求めた。
 両氏の微妙な言い回しの違いは異なる政治的スタンスによるものだが、訴えていることは同じである。日米同盟は重要だ、あるいは重要と考えるなら、米軍基地を沖縄だけに押しつけるのは理不尽だということである。

 7月30日、東京高裁で米海軍と海上自衛隊が共同使用している厚木基地の航空機騒音訴訟の判決があった。判決は自衛隊の部分のみの損害賠償と夜間飛行差し止めを認め、米軍機については「使用を許可する行政処分がない」として訴えを却下した。
 これは、「日米安全保障条約のように高度な政治性をもつ条約については、一見してきわめて明白に違憲無効と認められない限り、その内容について違憲かどうかの法的判断を下すことはできない」とした砂川裁判の最高裁判決が下敷きにある。
 砂川裁判において米軍駐留を憲法9条違反とした1959年3月の東京地裁の伊達判決は、アメリカの外交圧力によって高裁を飛び越え、同年12月の最高裁判決で合憲へとくつがえった。アメリカの公文書から明らかになった事実だが、この司法の主権を放棄した状態は半世紀過ぎても変わらない。なお2014年6月、砂川判決の無効を訴え東京地裁に再審請求が提出され、現在も審理中である。

 ぼくは日米同盟の破棄、米軍基地の撤退を目指すべきだと考えてきたが、まだ高橋氏のようにすっきりとはできずにいる。それでも、身近なところへの米軍基地誘致を拒否できない立場にいることは自覚している。
 それにしても、多くのひとびとが日米同盟を重要と考えると同時に日本国憲法の存続をのぞんでいることに驚く。一見問題なさそうなのだが、この両者は両立しない。現実には日本国憲法よりも日米安保条約、日米地位協定が優先される。つまり砂川判決や厚木基地騒音訴訟のように、両者が重なる部分では憲法は停止状態となる。
 日本の空域は米軍に優先権があり、米軍機は日本の航空法の適用外におかれている。米軍関係者(軍属、家族を含む)は日本に入国する際に入国手続きが不要とされ、いま現在日本にいるアメリカ人の正確な人数も把握できていない。これではまるで植民地ではないだろうか。
 最近こんな話題もあった。アメリカによる日本の内閣府などへの盗聴がウィキリークスによって暴露されたが、日本側からは抗議をしていない。4日も過ぎてバイデン副大統領から安倍首相に謝罪の(ような?)電話があり、そこではじめて遺憾の意を伝えたという。これは、宗主国と植民地の関係以外にない。
 日本の米軍基地はアメリカの軍事戦略上の必要からおかれているのであって、日本を守ることを優先していない。アメリカは自国の国益を求めるのであって、日本の国益や憲法などは考慮しない。現在審議中の安保法制は、憲法はもちろん、日米安保条約にも違反となる厄介者らしいが、なんといってもアメリカの国益優先となる。
 米軍基地をおいているほかの国はどのような協定を結んでいるのか、思いやり予算をふくめて調べてみる必要がありそうだ。そして、今後アメリカとどう付き合うべきかも考えるべきだろう。どう考えてもいまのままでよいとは思えないはずだ。憲法や自衛隊のあり方などがからみ面倒になるが、いずれ考えなくてはならない問題だ。  (2015/08)



<2015.8.7>

工藤34/1.jpg豊下楢彦『安保条約の成立 吉田外交と天皇外交』(岩波新書、1996年)

工藤34/2.jpg吉田敏浩ほか『検証 法治国家崩壊 砂川裁判と日米密約交渉』(創元社、2014年)

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工藤 茂(くどう・しげる)

1952年秋田県生まれ。
フリーランス編集者。
15歳より50歳ごろまで、山登りに親しむ。ときおりインターネットサイト「三好まき子の山の文庫」に執筆しているが、このところサボり気味。

工藤茂さんの
<ある日の「山日記」から>が読めます。LinkIcon