いま、思うこと9 of 島燈社(TOTOSHA)

二本松から.JPG

いま、思うこと〜提言・直言・雑感〜

第9回/工藤茂
2013年7月4日、JR福島駅駅前広場にて

 2013年7月4日、参議院選挙が公示され、選挙戦がスタートを切った。同日午前9時過ぎ、JR福島駅東口駅前広場では福島選挙区から出馬の自民党森まさこ氏(現少子化担当相)の街頭演説会が行われ、安倍自民党総裁が応援に駆けつけ、原発事故後の混乱に苦しむ人々を前に参院選の第一声をあげた。
 その翌5日朝、ぼくはYou Tubeで偶然こんな映像を見た。
 撮影は前日の、まさに福島駅前の自民党の街頭演説の場である。自民党の公約のひとつ原発再稼働をめぐって自民党本部と福島県連の立場が分かれていることをうけて、ひとりの女性が「総理、質問です。原発廃炉に賛成? 反対?」と書いたプラカードを持っていたところ、自民党関係者と私服警察官らしき人々が取り囲んだという。動画はそこから始まる。撮影は勇敢にも女性本人が行ったようにうかがえる。

http://www.youtube.com/watch?v=nRpZiNR48Ds
 この動画に登場する人々をめぐっては解釈が一様ではないと考えられるので、ぼくが感じ取ったままにまとめてみることにする。

 冒頭の画面にはふたりの男が大きく写っている。左が自民党関係者と思われる青いジャンパーの若い男で、もうひとりは50〜60代と思われる眼鏡をかけたノーネクタイのスーツ姿、中肉中背の男で、私服警察官(私服警察-1とする)と思われる。しかしその場を取り仕切っているのは右端から声を出している別の私服警察官(私服警察-2とする)で、姿は見えず声だけが聞こえている。その他数人の私服警察官がその女性を取り囲んでいるようだ。彼らが自民党関係者をつれてきて、なにかをうながしているように受け取れる。私服警察-2が話しているようだが、ずいぶん訛りが強い。
 「……で関係者の方ですから……、これは演説会であって、国会とかのように質問して応答する場所でないもんですから、自民党の方にアレしてください」
 女性は質問しようとしているのではなく、「総理、質問です。……」というプラカードを掲げようとしていただけであることは分かるはずだ。しかし、そのプラカードを掲げるのを許さない。だが警察が取り上げたら問題になると考えたのか、自民党関係者をつれてきたようだ。そしてプラカードを自民党関係者に渡せと言っているのである。自民党関係者の青ジャンパーの若い男が、困惑した表情でアップになっている。名刺らしいものを女性に渡しながら声をかける。
 「すみません、一旦、私間違いなくお預かりしますんで、あとでお返ししますので、よろしくお願いします」
 私服警察-2「ええ、すみませんが、ここはそういう場所じゃないんですよ」
 青いジャンパーの自民党関係者、頭を下げて「ご協力いただいてありがとうございます」
 私服警察-2「すみませんねえ、ほんとに」
 自民党関係者は去って、少々間があく。ビデオカメラは女性のバッグの中なのだろうか、撮影されている当人たちは気づいていないように思える。
 私服警察-2の顔がアップで写り手帳を取り出してメモをとる体勢に入っている。顔が写っているのはひとりだが、もうひとりの私服警察-1の手帳を持つ手も写っている。
 私服警察-2「反対するの分かるんですけど、どういったアレなんですか? どちらから来られたんですか」
 女性「私は、あの二本松市というところから来ています」
 私服警察-2「はい、二本松市、どちらですか」
 女性「反対しに来たんじゃなくて、聞きに来て、総理大臣がどういうふうに考えているのかなと思って……」
 私服警察-2「ああ、なるほどね。あの失礼ですが、お預かりした関係で、住所とお名前を自民党のほうにアレしておきますから教えていただけますか」
 女性「はい、二本松市(ピー音が入る)」
 私服警察-2「お名前は?」
 女性「佐々木るりと申します」(ピー音は入っていない)
 私服警察-2「るりさんはどう書くの?」
 女性「平仮名でるりです」
 私服警察-2「るりさんですね。えーと連絡先教えていただけますか?」
 女性「それはなんで?」
 私服警察-2「いや、先ほどプラカードを預かった関係で、もしも連絡つかなかったらお返しできないなぁーと思って」
 女性「私、いまもって、この場から出ていけばいいんですか?」
 私服警察-2「いや、話は聞いてもらっていいですからね、もちろん。ただ、そういう質問とかね、そういうアレじゃないですよー、そうそれだけですね。みなさん話を聞きに来てるものですから。総理がひとりひとりの質問に答えるという場ではないんですよ。それさえ理解してもらえれば、話を聞いてもらって結構ですから」
 女性「私、プラカードを持って、その帰ります」
 私服警察-2「先ほどのあの青いジャンパーを着た方が自民党の方ですから、言っていただければ、プラカードなりなんなり返していただけるようになりますから。
 私服警察-1「大丈夫ですから、大丈夫ですから」
 泣き声になった女性「そんなに大事なものでもないので……」
 私服警察-1「大丈夫ですから、大丈夫です」
 女性「あの、帰ります」

 以上が映像のすべてである。削除されないことを祈りたい。
 映像には演説のような声も入っているが、安倍総裁のものではないようだ。演説を聞いている人々とともに少なくない数の私服警察官の姿もみえる。私服警察官は聴衆とは逆向きなのでよく目立つ。
 この女性はプラカードを掲げて意思を示したかっただけなのだが、犯罪者のような扱いを受ける国になってしまっている。反対の意思表示のプラカードを没収する権限など警察にも自民党にもありはしないはずなのだが。
 私服警察官は、ここは質問する場じゃないと繰り返しているが、そんなことはない。タイミングさえ合えば、そして時間に余裕さえあれば、いくらでも質問できるはずなのだ。けっしてそこが質問を許されない場ということはない。させたくないだけのことであろう。
 映像の後半、私服警察官が住所、氏名を聞いているところなど、まさに職務質問のおきまりのパターンで、ぼくも経験がある。答える必要はないのだが、警察は答えないと面倒なことになりそうな気配をたっぷり匂わせてくる。
 ひとりでのこういった行動は勇気のある行動だとは思うが、よほど腹が据わっていないと警察のやり方には太刀打ちできるものではない。法律など無関係にやりたい放題にやられてしまうと考えたほうがよい。
 もし数十人のグループだったら、警察もこんな対応はできなかっただろうか。大勢の警察官で反対派グループを取り囲んで身動きできないようにするくらいで済んだであろうか。いや、警察が反対派を挑発して、ささいな抵抗を示したところで公務執行妨害で逮捕くらいのことはあるかもしれない。

 これに関連してネット上を調べてみると、今回の参院選公示少し前から同様の事例がいくつもあったことが分かった。なかには「ウソつかない。TPP断固反対。ブレない。──自民党」という、昨年の衆院選で自民党自身が掲げたプラカードを持っていて取り上げられた例があるのには呆れるしかない。その後自民党はTPP推進に舵を切っていて、そんなことを思い出してもらっては困るのである。
 10日付『東京新聞』で、この件に関して、人権派弁護士梓澤和幸氏が会見を開き、警視庁・福島県警、自民党に対して抗議の文書を送ったことが、小さいながらもようやく報じられた。プラカードは返却されていないという。
 異様なことが堂々とまかり通っている。権力側による規制があまりにも露骨すぎる。おそらく警察と自民党上層部は一体となって動いているのであろうが、参院選での自民党大勝後、こうした動きはもっと露骨になることが予測される。今後、われわれはそういう国で生きていくことになる。

 この映像の音声で、名前を消さずに出しているのが気になって調べてみたところ、彼女に関する情報はネット上にたくさんあるし、テレビに出演したり、講演会の動画も公開されている。
 さらに、You Tubeに今回の動画をアップロードしたのは女性本人であることが分かったし、この動画のあと、あまりにも悔しくて近くの駐車場でひとり泣いてしまったとインタビューで話している動画もあった。
 彼女の講演を書き起こしたものに目を通したが、原発事故直後の生々しい福島の惨状を伝えるものがあって、記憶の向こうに追いやってしまっていた当時の情況を思い起こした。講演を聞いた方のツイッターを転載させていただく。文字の色もそのままである。
 (以下、転載)
12日の爆発後に原発周辺の住民や病人を二本松に運んできた、カッコいいヘリを子供達は珍しがって見物に行き被ばくしてしまった。後でその小学校の砂を測定したら…90万ベクレル

お寺に停まってた車のガソリンをかき集め、やっと満タンになったワゴン車1台分に乗れるだけの女子ども。見送る男衆…。もぅ逢えないかと思った。

救援物資は福島を避け、他の被災地に行ってしまい、福島は汚染された為に誰も何も運んできてくれなかった。報道されてはいないが、沢山の人が餓死してしまいました。震災前は国や自治体が私たちの命を守ってくれると思っていた…

南相馬の同宗派のお寺では今年の1月からのお葬式が7件。そのうちの6件が自殺。4人は農家の方です。皆さん農薬を飲まれての自殺でした。(嗚咽の嵐)
便利な生活の為の代償があまりにも大きい。世界中で誰にも同じ思いをして欲しくない! 是非、皆で手を繋いでこの問題を考えましょう!
 (転載終わり)

 おそらくこの女性の生活は、どん底に突き落とされた2011年3月以降、目に見えて改善されることもなく、周囲の無言の圧力に押し込まれまいと必死に声をあげ続けているのであろうか。福島に暮らす人々の生の声から、無意識のうちに遠ざかっていた自分に気づかされた思いがする。
 講演のなかの福島の餓死者の件は、新聞・TVでの報道をみた記憶がない。調べてみると2011年5月、奇しくも自民党の森まさこ参議院議員が参議院法務委員会にて、南相馬市周辺で10人を超える餓死者が出ていることを、地元の医師から聞いた話として明らかにしていた。

 七夕の7日夜、TVのニュースで福島の母親たちが首相官邸前で抗議の声をあげている様子が流れた。そのなかに彼女が登場し、リポーターのインタビューに元気に応えている姿もあったが、名前の表示はなかった。   (2013/07)


<2013.7.13>

第31回/工藤茂
生涯一裁判官LinkIcon

第32回/工藤茂
IAEA最終報告書LinkIcon

第33回/工藤茂
安倍政権と言論の自由LinkIcon

第34回/工藤茂
戦後70年全国調査に思うLinkIcon

第35回/工藤茂
世界は見ている──日本の歩む道LinkIcon

第36回/工藤茂
自己決定権? 先住民族?LinkIcon

第37回/工藤茂
イヤな動きLinkIcon

第38回/工藤茂
外務省沖縄出張事務所と沖縄大使LinkIcon

第39回/工藤茂
原発の行方LinkIcon

第40回/工藤茂
戦争反対のひとLinkIcon

第41回/工藤茂
寺離れLinkIcon

第42回/工藤茂
もうひとつの「日本死ね!」LinkIcon

第43回/工藤茂
表現の自由、国連特別報告者の公式訪問LinkIcon

第1回〜30回はこちらをご覧くださいLinkIcon

工藤 茂(くどう・しげる)

1952年秋田県生まれ。
フリーランス編集者。
15歳より50歳ごろまで、山登りに親しむ。ときおりインターネットサイト「三好まき子の山の文庫」に執筆しているが、このところサボり気味。

工藤茂さんの
<ある日の「山日記」から>が読めます。LinkIcon

12.7.29反原発1.JPG

12.729反原発2.JPG

127.29.反原発3.JPG

13.6.2反原発1.JPG

13.6.2反原発2.JPG

13.6,2反原発3.JPG