いま、思うこと〜提言・直言・雑感〜 工藤茂

第112回:「佐渡島の金山」、世界文化遺産へ推薦書提出  

 「JIJI.COM」(2021年4月17日付)にこんな記事があった。
 2021年4月15日、ユネスコの執行委員会は、世界記憶遺産の申請登録について、当事国による異議申立制度を設け、異議が出た場合は関係当事国間の合意が得られるまで遺産登録されないという改革案を全会一致で承認したという。
 この制度改革は、2015年の中国による「南京事件」関連資料や、2016年の日本・中国・韓国・オランダなどの民間団体による「従軍慰安婦」関連資料の登録申請に関して、審査過程が不透明という日本政府からの抗議によって実現したもので、日本政府主導で行われた。このときは「南京事件」関連資料だけが登録された。
 「JIJI.COM」の記事では「日本政府からの働きかけ」という言葉を使用しているが、2015年の南京事件関連資料登録当時の記事によれば、ユネスコへの分担金・拠出金支払い停止までもちらつかせた強硬な抗議だったことが確認できる。
 その記事には当時の菅義偉[よしひで]官房長官の記者会見での不満げな写真までがレイアウトされていたが、国際舞台で分担金・拠出金支払い停止まで持ち出しての抗議では、いかにもカネに物を言わせた感が満載である。

 さて今年1月13日、日本政府は世界文化遺産への「佐渡島[さど]の金山」の推薦を見送るらしいという報道があった。韓国側が朝鮮半島出身者が動員、連行され、過酷な労働に従事させられた現場であることから登録に反発しており、上記の経緯を踏まえるならば当然とも思われた。日本政府も、韓国側が納得しない限り見送るしかないと考えたはずで、ごく普通の感覚である。
 ところが、そんな普通の感覚をお持ちでない方々が猛反発を開始した。自民党右派とも極右とも呼ばれている方々である。2015年当時、カネに物を言わせるような抗議でもって、関係当事国間の合意があるまで遺産登録されないように制度を改めさせた張本人は、安倍晋三首相(当時)率いる極右政権自身だったのだが、そんなことにはお構いなしだ。
 安倍元首相は「論戦を避けた形で申請しないのは間違っている」といきり立ち、高市早苗政調会長は「日本の名誉に関わる問題だ」と怖い顔で喚き立てる。強制労働はなかったとする資料があるとの主張らしいが、それとは反対に強制労働だったという資料もまた存在するのだ。

 韓国側にはまだ問題視していることがあった。2015年に軍艦島(端島)など明治産業革命遺産が世界遺産に登録された際、日本政府は「意志に反して連れてこられ、厳しい環境の下で働かされた多くの朝鮮半島出身者」の存在を認め、「犠牲者を記憶にとどめる」情報センターの設置を国際的に公約した。しかしながら2020年6月にオープンした産業遺産情報センターには公約したはずの内容の展示はなく、2021年7月、世界遺産委員会は展示・説明が不充分として改善を求める決議を行ったが、いまだ日本政府は放置したままだという(前川喜平「本音のコラム」『東京新聞』1月23日付)。
 これでは韓国にとどまらず、国際的な信用問題である。しかも、このときの外務大臣は現首相の岸田文雄氏で、岸田氏はこの問題を熟知している。いくら騒ごうが、この問題を解決しなくては「佐渡島の金山」など門前払いで当然なのだが、自民党極右の方々はそんなことすら理解できないようだ。前川氏は次のようにしめくくっているが、そのとおりだろう。
 「僕も佐渡金山は世界遺産にふさわしいと思うが、それは負の歴史も含めての話だ。まずは産業遺産情報センターについて国際公約を果たすことが先決だろう」
 ネット上には展示を見た方々の感想があるが、首をかしげてしまうところもあるようだ。経緯を知る日本政府当局者からの「約束違反だと言われないギリギリ(最低限)のことはやっている」という言葉もあるようだが、その程度の仕上がりなのだろう。

 2月1日、日本政府は「佐渡島の金山」の世界文化遺産への推薦書をユネスコに提出した。「最後は自分で決める!」とは言ってみたものの、岸田首相の心は相当揺れ動いたようだ。以下は、天木直人氏のメルマガによる。
 1月24日の衆議院予算委員会で高市政調会長に脅された岸田首相は、「国内政局がある。保守派の離反を招くかもしれない。外交の観点だけでは判断できない」と周囲に漏らしはじめたという。脳裏には夏の参院選がちらつきはじめたようだ。さらに岸田首相が懸念したのは、韓国ではなくアメリカの反応で、わざわざ安倍元首相にお伺いの電話をかけたとも。
 軍艦島の登録申請の際、安倍首相(当時)は岸田外相(当時)に向かって「韓国から歴史戦を挑まれているのだから避けられない」と迫り、外務省には任せず官邸に担当チームを設置した。安倍元首相のアドバイス(指示?)を得た岸田首相もまた、韓国、アメリカからの抗議、難色に備え、省庁横断のタスクフォースを設置したという。
 このように提出された推薦書である。ほとんど、やけくそで挑む負け戦、戦争に突き進んだ大日本帝国と一緒ではないか。岸田首相は今後、いったいどんな政治をやっていくつもりか。 (2022/02)

  

<2022.2.8> 

新潟県教育庁文化行政課世界遺産登録推進室によるポスター

いま、思うこと

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 第7回:原発ゼロは可能か?
 第8回:ぼくの日本国憲法メモ ①
 第9回:2013年7月4日、JR福島駅駅前広場にて
 第10回:ぼくの日本国憲法メモ ②

  
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 第16回:東京都知事選挙、脱原発派の分裂
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工藤茂(くどう・しげる)

1952年秋田県生まれ。
フリーランス編集者。
15歳より50歳ごろまで、山登りに親しむ。ときおりインターネットサイト「三好まき子の山の文庫」に執筆しているが、このところサボり気味。

工藤茂さんの<ある日の「山日記」から>が読めます。LinkIcon