いま、思うこと〜提言・直言・雑感〜 工藤茂

第117回:安倍晋三氏の死をめぐって 

 7月9日、奈良県の近鉄大和西大寺駅付近で、選挙演説中だった元首相の安倍晋三氏が銃殺された。8年間の首相在任中には数々の疑惑を抱え、その陰で犠牲となったり恨みを抱えたままの人間も少なくない。事件直後、思い浮かんだ容疑者はそんなひとたちだったが、ほかに永山則夫氏のような人物もいた。
 逮捕された容疑者についての報道は早かった。「政治信条に対する恨みではない」「特定の宗教団体に恨みがあり、安倍元首相がつながっていると思い込み、犯行に及んだ」という動機が報じられたが、「〜と思い込み……」といういかにも調書臭い作文に苦笑した。
 その後の報道をみていくと、容疑者の父の自殺、母の宗教団体への入信と多額の献金による貧困。学ぶ機会も奪われ、自身の保険金で兄・妹の生活をと自殺未遂まではかったうえ、病の兄は自殺。永山氏と重なる家庭崩壊と貧困がみえてくる。
 
 国内の報道は、「特定の宗教団体」の実名を明かすことなくしばらく続き、何か不都合があるらしいと匂わせるものだったが、フランス在住の日本人が現地の報道を紹介しているツイッターに出会った。まずはフランス右派の「フィガロ」紙。
 「銃撃の動機を『統一教会に恨みを抱き、安倍前首相が統一教会と関係があると信じていたため、犯罪を犯したと自白』と解説している。」(7月9日付)
 同記事を読んだ別の方のツイッター。
 「『日本の警察は当分の間、問題の組織の名前を挙げることを拒否している』とも書いてますね」(7月10日付)
 統一教会(現世界平和統一家庭連合。この稿は旧名称で通す)の名前が出てきて驚いた。さらに、欧米では統一教会は創価学会とともにカルト宗教として認定されているから報道しやすいという書き込みもあった。また警察が実名公表を止めているとは、やはり不都合があるらしい。これを受けての日本在住の方のツイッター。
 「フランスのフィガロ紙に今回の事件の『特定の宗教団体』が統一教会であると明言があった模様。日本のマスコミはいまだに真相を隠蔽。全世界が注目する中でそれは無理。自民党と統一教会の関係が世界的に明るみに出るのは時間の問題」(7月9日付)
 次も日本在住の方のツイッター。
 「安倍晋三、自民党とSecte Moon。フランスのどこの報道でも普通に言っているし、英語では、Unification Church と呼ぶのです。検索すれば日本の新聞も外国向けには言っていることがわかります。日本国内だけマスコミが言わないようにしているだけです」(7月10日付)
 日本国内では、霊感商法対策弁護士連絡会のツイッターも早かった。統一教会との関わりについて、安倍氏には早くから公開抗議文を送ってきたというもので、再びその文面を公開していた。これも国内では統一教会の実名が表に出る前のことである。
 次はフランス「フィガロ」。
 「日本の警察のトップは、権力に近いレイプ犯の起訴を止めたことで有名な中村格氏である。10日夕刻の時点で、日本の“主要な報道機関”は、犯人がターゲットにした 『宗教団体』(=統一教会)の名前をまだ挙げていない」(7月12日付)
 実名報道を止めていたのは伊藤詩織さんの事件で暗躍した中村格氏(現警察庁長官)
の指示と匂わせている。参議院選挙で自民党への投票に悪影響が出ることを恐れたのであろうか。
 投票日の翌日の7月11日、統一教会14代会長田中富広氏が会見を行ったことには驚いたが、中村氏との間で打ち合わせがあってのこととも思える。肝心のところをぼかしたような会見内容だったが、これ以降はテレビでも実名が報じられるようになった。
 次は「フィガロ」。
 「日本の宗教と政治の関係を専門とする政治学者、Axel Kleinは『自民党の指導者の多くは宗教団体と関係があり、彼らの政治的代理人になっています』、自民党は『他の有権者が遠ざかるのをおそれ、決して公の場では認めないが、宗教団体との関係は真実かつ強い』と論じています」(7月12日付)
 さらにフランス経済紙「レゼコー」。
 「安倍晋三暗殺の政治性を公に検討することを余儀なくされた場合、自民党は党として反省を迫られ、困難な時期を迎える可能性がある。この暗殺事件は、自民党の特定の過激な宗教団体(=統一教会)への支持と歴史的かつ現代的な結びつきを明らかにした」(7月12日付)
 田中会長は会見で、安倍氏と統一教会の関係を問われ、「私たちの友好団体が主催する行事に安倍元首相がメッセージなどを送られたことはある」とのみ答えて逃げた。2021年9月、安倍氏が天宙平和連合(UPF)へ送ったビデオメッセージのことで、テレビでもこの件ばかりが強調されていた。
 犯行はビデオメッセージを見たことがきっかけという容疑者の供述が報道されたせいであろうが、明らかになった容疑者自身のツイッターでも、それがほぼ裏付けられたようだ。しかし、ネット上にはいくらでも出ていることだが、安倍氏は合同結婚式に祝電を送ったり、統一教会の広告塔としてオピニオン誌『世界思想』(世界思想出版社)の表紙を何度も飾ってきたことはよく知られている(世界思想出版社は統一教会系の出版社で、世界思想社とはまったくの別会社である)。さらに統一教会内部では、安倍氏のように教会の活動に積極的に関わっている政治家は「隠れ信者」とされ、信者と名乗れないのは事情があってのことと理解されているという。
 長い間統一教会に苦しめられてきた容疑者は、そこまで熟知しての行動だとばかり思っていたが、そうではなさそうである。容疑者の目的は、家庭や自分の人生を破戒してしまった教会自体を潰すことにあったことは確かだが、本来のターゲットは困難なため、やむを得ず関連団体の集会にビデオ出演した安倍氏を標的にした、ということのようだ。統一教会の広告塔として、長年信者勧誘に大きな影響を及ぼしてきた安倍氏の実像さえも知らないままに銃撃にまでおよんだのであろうか。
 事情はどうあれ、政治と宗教の結びつきの問題を提起してくれたことは確かで、ネット上には統一教会と関係のある100人を超える国会議員のリストが挙げられ、大蔵大臣当時の福田赳夫氏が教会のパーティで講演する動画まで登場するなど情報が溢れているが、日本の大手メディア、とくにテレビは積極的ではない。報じられる内容は統一教会への献金の実態や被害に限られているようで、残念ながら政界と統一教会の関係はあからさまにされることなく終わってしまいそうな気配である。
 統一教会と自民党やその他の政治家のみならず、創価学会と公明党、アメリカのキリスト教原理主義とネオコンの問題もある。今後、深く掘り下げられていくことを期待したい。

 安倍元首相演説時の警備体制に問題があったという指摘が頻繁に登場する。田中会長の会見の際、記者から次のような質問があった。
 「聴衆の中にけっこうな数の信者の方がいらっしゃったという話があるのですが、(中略)地元の候補者のほうへの応援は統一教会としてしていた?」
 田中会長「教会としてではありませんが、個人として、みなさんが支援団体となってやっている可能性はあります」
 会長は、地元支部が支援している候補者だったことをほぼ認めている。地元選出の堀井巌参議院議員によれば、安倍氏の来県が決まったのは前日夕方で、一般への周知はせず推薦団体には知らせたという(『朝日新聞DIGITAL』(2022年7月8日付)。そして、自民党のHPにも記載されていた。
 演説した場所は、奈良支部(正式には奈良家庭教会)から徒歩4分のところ。信者たちが集まりやすいように場所が設定され、あの日の聴衆のほとんどが信者であることは警察やSPにも伝えられていた。当然ながら、警備は手薄になっていたのではあるまいか。容疑者が自民党のHPを見たことが、安倍氏にとって不運だった。

 容疑者の伯父(弁護士)の動きには驚いた。伯父は事件直後、容疑者の母と妹にタクシーで自宅へ来るように指示し、いまも自宅にふたりをかくまっている。自身がふたりを教団とマスコミから守る盾になっている。伯父は容疑者一家のよき理解者だったのではあるまいか。その伯父と早くから良好な関係をもっていたら、今回の事件に至ることはなかったのではないか。
 安倍氏は憲法も国会も、民主主義そのものを軽んじていた。当然、弱者に寄り添ってくれるような政治家でもなかった。ぼくは安倍氏の叫んだ「こんなひとたち」の側にいる人間である。安倍氏に献花をする気もないし、国葬などといわず仲間内のお弔いで済ませたほうがよろしかろう。 (2022/07)
  

<2022.7.20> 

雑誌『世界思想』表紙を飾った安倍晋三氏(ネット上より)

いま、思うこと

第1〜10回LinkIcon 
 第1回:反原発メモ
 第2回:壊れゆくもの
 第3回:おしりの気持ち。
 第4回:ミスター・ボージャングル Mr.Bojangles
 第5回:病、そして生きること
 第6回:沖縄を思う
 第7回:原発ゼロは可能か?
 第8回:ぼくの日本国憲法メモ ①
 第9回:2013年7月4日、JR福島駅駅前広場にて
 第10回:ぼくの日本国憲法メモ ②

  
第11〜20回LinkIcon
 第11回:福島第一原発、高濃度汚染水流出をめぐって
 第12回:黎明期の近代オリンピック
 第13回:お沖縄県国頭郡東村高江
 第14回:戦争のつくりかた
 第15回:靖国参拝をめぐって
 第16回:東京都知事選挙、脱原発派の分裂
 第17回:沖縄の闘い

 第18回:あの日から3年過ぎて
 第19回:東京は本当に安全か?
 第20回:奮闘する名護市長

第21〜30回
LinkIcon
 第21回:民主主義が生きる小さな町
 第22回:書き換えられる歴史
 第23回:「ねじれ」解消の果てに
 第24回:琉球処分・沖縄戦再び
 第25回:鎮霊社のこと
 第26回:辺野古、その後
 第27回:あの「トモダチ」は、いま
 第28回:翁長知事、承認撤回宣言を!
 第29回:「みっともない憲法」を守る
 第30回:沖縄よどこへ行く
  
第31〜40回LinkIcon
 第31回:生涯一裁判官
 第32回:IAEA最終報告書
 第33回:安倍政権と言論の自由
 第34回:戦後70年全国調査に思う
 第35回:世界は見ている──日本の歩む道
 第36回:自己決定権? 先住民族?
 第37回:イヤな動き
 第38回:外務省沖縄出張事務所と沖縄大使
 第39回:原発の行方
 第40回:戦争反対のひと

第41〜50回  LinkIcon
 第41回:寺離れ
 第42回:もうひとつの「日本死ね!」 
 第43回:表現の自由、国連特別報告者の公式訪問
 第44回G7とオバマ大統領の広島訪問の陰で
 第45回:バーニー・サンダース氏の闘い 
 第46回:『帰ってきたヒトラー』
 第47回:沖縄の抵抗は、まだつづく 
 第48回:怖いものなしの安倍政権
 第49回:権力に狙われたふたり 
 第50回:入れ替えられた9条の提案者 
 第51~60LinkIcon
    第51回:ゲームは終わり
 第52回:原発事故の教訓
 第53回:まだ続く沖縄の闘い 
 第54回:那須岳の雪崩事故について
 第55回:沖縄の平和主義
 第56回:国連から心配される日本
 第57回:人権と司法
 第58回:朝鮮学校をめぐって
 第59回:沖縄とニッポン
 第60回:衆議院議員選挙の陰で

第61回:幻想としての核LinkIcon 

第62回:慰安婦像をめぐる愚LinkIcon

第63回:沖縄と基地の島グアムLinkIcon

第64回:本当に築地市場を移転させるのか?LinkIcon

第65回:放射能汚染と付き合うLinkIcon 

第66回:軍事基地化すすむ日本列島LinkIcon 

第67回:再生可能エネルギーの行方LinkIcon 

第68回:活断層と辺野古新基地LinkIcon 

第69回:防災より武器の安倍政権LinkIcon 

第70回:潮待ち茶屋LinkIcon 

第71回:日米地位協定と沖縄県知事選挙LinkIcon 

第72回:沖縄県知事選挙を終えてLinkIcon 

第73回:築地へ帰ろう!LinkIcon 

第74回:辺野古を守れ!LinkIcon 

第75回:豊洲市場の新たな疑惑LinkIcon 

第76回:沖縄県民投票をめぐってLinkIcon 

第77回:豊洲市場、その後LinkIcon

第78回:元号騒ぎのなかでLinkIcon 

第79回:安全には自信のない日本産食品LinkIcon 

第80回:負の遺産の行方LinkIcon 

第81回:外交の安倍!?LinkIcon 

第82回:「2020年 東京五輪・パラリンピック」中止勧告LinkIcon 

第83回:韓国に100%の理LinkIcon 

第84回:昭和天皇「拝謁記」をめぐってLinkIcon 

第85回:濁流に思うLinkIcon 

第86回:地球温暖化をめぐってLinkIcon 

第87回:馬毛島買収をめぐってLinkIcon 

第88回:原発と裁判官LinkIcon 

第89回:新型コロナウイルスをめぐってLinkIcon 

第90回:動きはじめた検察LinkIcon 

第91回:検察庁法改正案をめぐってLinkIcon 

第92回:Black Lives Matter運動をめぐってLinkIcon 

第93回:検察の裏切りLinkIcon 

第94回:沖縄を襲った新型コロナウイルスLinkIcon 

第95回:和歌山モデルLinkIcon 

第96回:「グループインタビュー」の異様さLinkIcon 

第97回:菅政権と沖縄LinkIcon 

第98回:北海道旭川市、吉田病院LinkIcon 

第99回:馬毛島買収、その後LinkIcon 

  

第100回:殺してはいけなかった!LinkIcon 

第101回:地震と原発LinkIcon

第102回:原発ゼロの夢LinkIcon 

第103回:新型コロナワクチンLinkIcon 

第104回:新型コロナワクチン接種の憂鬱LinkIcon 

第105回:さらば! Dirty OlympicsLinkIcon 

第106回:リニア中央新幹線LinkIcon

第107回:新型コロナウイルスをめぐってLinkIcon 

第108回:当たり前の政治LinkIcon 

第109回:中国をめぐってLinkIcon 

第110回:したたかな外交LinkIcon

第111回:「認諾」とは?LinkIcon 

第112回:「佐渡島の金山」、世界文化遺産へ推薦書提出LinkIcon

第113回:悲痛なウクライナ市民LinkIcon 

第114回:揺れ動く世界LinkIcon

第115回:老いるLinkIcon

第116回:マハティール・インタビューLinkIcon 

第117回:安倍晋三氏の死をめぐってLinkIcon

第118回:ペロシ下院議長 訪台をめぐってLinkIcon

第119回:ウクライナ戦争をめぐってLinkIcon

工藤茂(くどう・しげる)

1952年秋田県生まれ。
フリーランス編集者。
15歳より50歳ごろまで、山登りに親しむ。ときおりインターネットサイト「三好まき子の山の文庫」に執筆しているが、このところサボり気味。

工藤茂さんの<ある日の「山日記」から>が読めます。LinkIcon