いま、思うこと〜提言・直言・雑感〜 工藤茂

第96回:「グループインタビュー」の異様さ  

 安倍晋三政権での「桜を見る会」疑惑といい、菅義偉新政権での日本学術会議新会員任命拒否問題といい、どちらも『しんぶん赤旗』の大スクープだった。お見事である。「桜を見る会」疑惑は、安倍首相が何も説明しないままに逃げて放っておかれたまま。任命拒否問題も政府(菅首相)が説明をしようとしないままで海外にまで報道が広がり、いまやプリンストン大学やコロンビア大学で学者らによる反対署名運動も始まり、『ネイチャー』誌や『サイエンス』誌などの海外科学誌、主要紙なども取り上げている。もはや菅首相は、トランプ大統領とまったく同じということが世界に広まった感がある。
 そんな10月5日夜、テレビの報道番組では菅首相の記者会見の様子が流れていた。なかなか会見を開こうとしなかったので、ようやくかと思って眺めてみた。菅首相ひとりがカメラに向かった机に座って応じていて、あまり見たことのない新しいスタイルなのかと思われた。
 菅首相の机の上には花が置かれ、手元はまったく見えない。これは、手元の原稿を読んでいることをカムフラージュするためであることは明らかだった。当然、質問は事前通告である。
 形は少々変わったようだが、言っていることは相変わらずである。任命拒否問題については「総合的、俯瞰的な活動を確保する観点から、今回の任命についても判断した」と、何を言っているのかわからない。さらに任命拒否の理由について問われ、「学問の自由とはまったく関係がない。それはどう考えてもそうじゃありませんか」と語気を強めて言い放つ。根拠もなく、納得しようもない答え方である。ただ当の本人の顔つきは、充分に説明したつもりになっているのである。

 翌日になって、前日に流れたツイッターを眺めていて驚いた。5日の午前から、フリーランスライターの畠山理仁[みちよし]氏の連続ツイッターが流れていた。
 「菅義偉首相が本日夕方、読売新聞、北海道新聞、日本経済新聞からの申し込みのあったインタビューを受けるとのこと。グループインタビューの場には内閣記者会常勤幹事社19社も同席。音声は首相官邸の会見室(全29席。取材場所とは別)にも流される。こちらにも19社から1社1名来るので残る10社は抽選」
 よく事態が飲み込めなかったが、追ってツイッターを読んでいくと、「会見とは別物とのこと。早く普通の形の会見を開いてほしい」という記述があって、形が少々変わった程度では済まない、とんでもない記者会見だったことが窺い知れる。
 そして畠山氏は「グループインタビューを別室で傍聴する権利(!)が抽選で当たった」。テレビで流れた映像は記者会見ではなく、「グループインタビュー」と呼ばれるもので、別室もあるようだ。さらに続くツイッターを読み、またまた驚いた。
 「菅義偉首相の表情も見られないので『菅義偉首相とされる人物へのグループインタビュー音声らしきもの』と疑われても仕方ないんじゃないか。万が一、台本を読まされていたとしてもわからない。『首相官邸でみんなと聴くラジオドラマ』の可能性も捨てきれない」
 このインタビューの音声生中継はNG、録音した音声をあとでアップするのはOK、全文テキスト化もOKということであった。
 畠山氏は自身がいた別室の様子の画像もアップしていたが、広々とした会見室に、パラパラと間隔をおいて記者たちが小机に座ってパソコンに向かっている。そこにはモニターもなく、異様で寒々しい光景だった。

 『日刊ゲンダイDIGITAL』(2020年10月6日付)の記事や江川紹子氏のツイッターによると、首相官邸が内閣記者会(官邸記者クラブ)所属メディアに「菅総理大臣へのグループインタビュー」の開催を通知したのは5日午前10時。開催は同日夕方である。記者クラブ常駐の大手19社は優先的に出席が認められ、別室に常駐以外に割り当てられた10席は抽選である。別室傍聴を希望する場合は、3カ月以内に掲載した記事を添付して正午までに申し込む。この通知時間の短さは、明らかに参加を遠ざけているようである。
 日刊ゲンダイが官邸報道室に確認したところによれば、実際にインタビューしたのは読売新聞、北海道新聞、日本経済新聞の3社。別室になる会見室では音声のみが流された。インタビュー時間は30分、写真撮影はインタビューした3社のみ、動画撮影はクラブ加盟の2社のみに許された。
 戦史・現代史研究家、山崎雅弘氏がツイッターに掲載した画像では、インタビュー時の菅首相の周囲の様子がよくわかる。前方中央に置かれた菅首相のデスクのすぐ前、左右に分かれて読売新聞、北海道新聞、日本経済新聞の3社の担当が座るデスクが置かれてインタビューを行っている。所属メディア他社は前方から距離をおいて並んだ小机に座ってその様子を傍聴し、質問は許されない。高低差はないものの、さながら舞台と観客席のようである。
 山崎氏はツイッターで辛らつな言葉を連発している。
 「机に座る記者3人、手前に並ぶ記者、そして別室で音だけ聴かされる記者。こういう『選別』をすることで記者同士の繋がりを分断し、焦らせ、萎縮させ、服従させる」
 「『記者会見はやらない、グループインタビューならやる』『その〈グループ〉も質問していい記者は3人だけ』『それ以外の記者は黙って話を聞くだけ』。これが一国の総理大臣の態度と考えれば、菅義偉という政治家の本質的な『幼稚さ』がよくわかる。成熟とは反対の、単なる『わがまま』。駄々っ子総理」(どちらも10月7日付)
 要するにテレビの報道番組で流された映像は、ごく普通の記者会見のように編集されたもので、これまでに見たこともない、グループインタビューと呼ばれる異様なものだったということだ。
 そのことはテレビ、新聞は報道しない。『東京新聞』(同年10月6日付)でも「今回のインタビューは読売新聞、北海道新聞、日本経済新聞のインタビューに内閣記者会に常勤する社が同席する形で行われ、三紙以外は質問できなかった。本紙もインタビューを申し込んでいる」と書いたのがせいぜいであろう。この異様さをあまり強調すると抽選扱いにされかねないのだろう。

 10月9日、2回目のグループインタビューが行われた。今回は畠山氏は取材で富山にいるので参加できないが、やはり氏のツイッターでこの情報を得た。今回インタビューしたのは毎日新聞、朝日新聞、時事通信社の3社。この日のインタビューで、菅首相は学術会議推薦の6人を除外したのは自分ではないと前言を翻す発言をしているが、ほかで大きく報道されているので、ここでは触れないでおく。
 この日のグループインタビューで、抽選で別室に入ることができたフランスのリベラシオン紙の西村カリン氏は、うんざり顔で取材に応じている。
 「質問者をわずか3社の記者だけに限定し、他は傍聴部屋で映像すら見せない。国のトップがこのような閉鎖的な会見をするのは、あり得ない。私は20年以上記者をしていますが、見たことも聞いたこともありません」(『日刊ゲンダイDIGITAL』同年10月10日付)
 このインタビューの形では、フリーランス、海外紙の記者たちは、質問する機会が与えられることはない。うるさい者どもを排除しているのだ。そこで仮に、普通のオープンな記者会見を要求したところで無駄だろう。「じゃ、こちらは結構です。インタビューも記者会見も今後一切やりませんから」と開き直られておしまいになりそうだ。

 リニアモーターカー工事の件では頑とした態度を貫いている静岡県の川勝平太知事が、任命拒否問題について「管義偉という人物の教養のレベルが露見した」と述べたように、首相にしてはいけないレベルの人物である。任命拒否の理由をいくら問い質したところで、答えないままで押し通し、従わない者は排除するのだろう。菅政権全体から受けるイメージには、オープンな姿勢はまったくみられない。いつも密室でコソコソやっているような雰囲気で、薄気味悪さがつきまとう。安倍政権もひどかったが、より陰険、陰湿になった。これは我が国の不幸である。早々に政界を引退してもらいたい。
 かつて翁長雄志沖縄県知事に向かって言った「戦後生まれなので、沖縄の歴史はなかなかわからない」、首相就任直前に言った「政権の決めた政策に反対する幹部は異動してもらう」。これらの言葉は、菅首相の人間性をよく表している。
 ところで、こんなことを書いているぼくは、菅首相と同じ秋田の生まれである。まったくイヤになる。 (2020/10)



<2020.10.12> 

菅義偉首相のホームページ

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 第10回:ぼくの日本国憲法メモ ②

  
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工藤茂(くどう・しげる)

1952年秋田県生まれ。
フリーランス編集者。
15歳より50歳ごろまで、山登りに親しむ。ときおりインターネットサイト「三好まき子の山の文庫」に執筆しているが、このところサボり気味。

工藤茂さんの<ある日の「山日記」から>が読めます。LinkIcon