いま、思うこと〜提言・直言・雑感〜 工藤茂

第67回:再生可能エネルギーの行方

 4月中旬のことだった。つぎのようなツイッターを目にした。
 「日本国民の皆さまへお知らせします。たぶん日本政府は絶対に日本国民には知らせないと思います。先月のことですが、ポルトガルが国内電力の104%を再生可能エネルギー(風力+水力)で全てまかないました」
 ポルトガルの電力事情などまったく注目していなかったので、正直驚いた。複数のサイトで情報を確認してみたところ、およそ次のようなことがわかった。
 ポルトガルが、4月7日から11日までの4日半の間、太陽光、風力、水力、バイオマスを合わせた再生可能エネルギーによる発電比率が、全電力消費量の100%に到達したという。記事によっては104%のものもある。さらに、2016年5月には107時間にわたって電力を再生可能エネルギーでまかなったという記事もあった。ほかに、ドイツでも今年4月8日、一時的に全電力消費量の95%まで到達していた。
 ポルトガルは日本と同様化石燃料資源をもたない資源小国で、原発ももたない。しかし、ヨーロッパではもっとも太陽光に恵まれた国であるとともに水源も豊富、海岸線も長く洋上風力発電にも適しているため、10年ほど前から多様な再生可能エネルギーの推進プロジェクトをすすめてきたという。ただ人口約1,000万人、電力需要も530億kWh/年で北海道電力程度の規模というから、日本とは単純に比較できないが、いまだに原発を「重要な基幹電源」と位置付け、国策で原発輸出を推しすすめている日本の安倍政権とは、対極の政策の国であることは間違いない。
 
 ところで2015年8月、台風15号は石垣島付近で中心気圧940hPa、最大瞬間風速71.0m/sを記録したのち、沖縄本島、奄美大島の西を通過して熊本県に上陸、勢力を落としながら福岡県から日本海へと抜けた。
 この台風15号を報じるテレビのニュースを観て唖然としてしまった。大規模な太陽光発電所だったと思うが、無残にも割れたソーラーパネルが一面にひろがる風景が映されていたのだ。ソーラーパネルは割れるものであることを、このとき初めて認識させられた。
 太陽光パネルは建築基準法により、地上15メートルで秒速60メートルの風圧に耐えられるように設計されているというが、台風15号の被害をみると、はたしてそれで充分なのかと思えてくる。台風の場合には看板や屋根瓦などが飛ばされてくることもあり、それらが太陽光パネルに激突することも想定しなければならないだろう。
 太陽光パネルにふくまれている鉛、セレンなどの有害物質の問題もあるという。20年の寿命を迎えたパネルは産業用廃棄物処分場に埋め立てられるというが、規模の大きな太陽光発電所の場合、膨大な量のパネルが一度に廃棄されることになる。パネルのリサイクルも可能なのだが、コストがかかることもあって仕組みができていないようだ。無害で、割れない素材によるソーラーパネル、そんなものは不可能であろうか。
 
 以前、本欄で秋田県にかほ市の仁賀保高原風力発電所の風車(風力タービン)の写真を掲載したことがあった。これはJ-POWER(電源開発)が2001年12月に営業運転を開始したもので、出力24,750kW、鳥海山北麓の標高500メートルの仁賀保高原に15基の風車が並んでいる。
 ところが、先日届いた秋田市で発行されている冊子『楽園』Vol.46(萌芽舎)では、高校山岳部OB会の大先輩である荘司昭夫氏(現秋田県山岳連盟副会長)が、「ここ数年、秋田県の巨大風車導入の激しさは尋常ではない」と警鐘を鳴らしていた。秋田県の風車の設置基数はすでに全国1位であり、県の計画では1,000基まで増やそうとしているという。
 秋田県はぼくの故郷であり、いつも鳥海山を眺めながら育ってきた。秋田県側にあたる北麓には高原がひろがっていて由利原と呼ばれていたが、いつのころからか仁賀保高原とも呼ばれるようになったようだ。日本海に臨み、鳥海山を仰ぐ美しくひろい高原なのだが、冬季にはシベリアからの猛烈な風をじかに受けるところでもある。
 そういうところに早々に注目して風力発電を始めたのが、原発でもよく知られたJ-POWERである。同社が風力発電を始めたのは2000年ころからだから、仁賀保高原風力発電所はかなり早い。同社はそのすぐそばににかほ第二風力発電所(風車18基、41,400kW)を建設中で、2019年3月には営業開始予定という。
 そこから数キロ北、その高原のはずれにはユーラスエナジーによるユーラス西目ウインドファーム(風車15基、30,000kW)が2004年11月に営業を始めていて、これも早いほうである。さらに同社は2015年12月にユーラス由利高原ウインドファーム(風車17基、51,000kW)、今年4月にはユーラス東由利原ウインドファーム(風車13基、41,600kW)の営業も開始した。
 高原を北へ下っていくと由利本荘市の中心部になる。そこを流れる子吉川河口付近南側に、J-POWERによる由利本荘海岸風力発電所(風車7基、16,100kW)が2017年1月にから営業が始まっている。そして同市の沖合にはとんでもない規模の発電所の計画があった。秋田由利本荘洋上風力合同会社による由利本荘市沖洋上風力発電事業(仮称)で、同市沖合1キロメートルに長さ30キロメートルにわたって風車140基を3列に、1,000MWの発電所が2026年の営業運転を予定しているという。
 とりあえず現状を知るためにネットを駆使して情報を集めてみたが、由利本荘、にかほ両市だけで、来年早々には合計85基の風車が建ち並ぶことになる(計画段階のものは除外した)。ただ、これがすべてではない。風車1基、2基程度のものも多いのですべてを把握するのは容易ではない。地元の住民グループ「由利本荘・にかほ市の風力発電を考える会」によれば、両市内には現在約60基の風車があり、申請・手続き中のものをふくめると400基以上になるという(『河北新報』web版、2018年2月23日付)。
 こんなことを調べていた矢先、鳥海山の1、2合目付近にSBエナジーによる風車10基、出力34,000kWの風力発電施設の計画を断念したというニュースがあった。地元の理解が得られなかったという(『河北新報』web版、同年4月8日付)。「考える会」による訴えの成果であろう。
 これが秋田県南西部に位置する2市の現状である。さらに日本海に沿って北上していくと秋田市、潟上市、男鹿市、三種[みたね]町、能代市にもすでにいくつもの風力発電所がつくられているし、新たな計画もある。2013年には秋田県資源エネルギー産業課主導による「あきた沖合洋上風力発電研究会」も設立され、100%地域資本の「風の王国」グループによる風車1,000本プロジェクトも始動しつつある。秋田県の沿岸と大潟村に文字どおり風車を1,000本建てる計画である。
 
 「いったい何本建てたら充分なのか、あたり一帯風車だらけになるぞ!」。思わずそう叫びたくなってきた。風力発電は原発のような放射性廃棄物とは無縁である。太陽光発電に比べて売電価格が高く、再生可能エネルギーとしては、水力発電に次いで採算性が高いといわれている。しかしながら景観上の問題やデメリットも少なくはない。
 浜辺で海に夕陽が沈んでいく様子を眺めたものだが、そういう景色はだいぶ変わってきそうだし、海水浴の風景も変わる。計画中の由利本荘市沖洋上風力発電完成の暁には、目の前の海は間違いなく風車だらけになる。荘司氏から提供いただいた人家に迫る風車群、仰ぎみる鳥海山を背景に林立する風車の写真は衝撃的である。
 風車のローター(ブレード)の風切り音や機械音などの騒音と低周波の問題がある。最近の風車のように大型になればなるほど音が大きくなるので人家からの距離が必要になる。新潟から鉄道で北上してみるとわかるが、海岸に沿ってほぼ人家がつづく。秋田県のように海岸にずらりと風車を設置する計画では、人家との距離が充分に確保できないだろう。
 地元のある主婦のブログ「風力発電の風車による眺望景観への影響」には、ある程度風車との距離もあり、ローターは回っていないにもかかわらずウォンウォンという音が響いてきて、近付いていくにつれ地響きのような唸りが強くなり、ずっとそこにいたら頭がおかしくなるほどの重低音がつづくという記述があった。ぼくは仁賀保高原風力発電所では唸りのような音を感じることはなかったが、あのローター径は66メートル、最近の大型のものは150メートルにもなるという。由利本荘市沖洋上風力発電が完成したら、健康への影響で市の人口は半減するという予測まである。
 また金沢市のある電気屋さんのブログによれば、福井県から秋田県の日本海沿岸は世界でも有数の雷銀座で、海岸近くや山の上に建てられた風車は雷の恰好の餌食だという。そばに風車よりも高い105メートルほどの鉄塔を建てて雷を誘導するのだが、それでも風車にも落ちるし、ローターがもぎ取られたり、内部の電気機器がパンクしたりして、運転停止も多いという。
 
 太陽光発電、風力発電、水力発電などの再生可能エネルギーは、原発や石炭火力発電とは明らかにちがい、ある程度環境に配慮したエネルギーといえるだろう。秋田県の風力発電は県が主導しているというが、原発誘致とは異なるから許せるかといえばそうもいかない。
 静岡県富士宮市では白糸の滝周辺や田園地帯など市域の75%で、山梨県富士河口湖町では全域で、風力発電、太陽光発電設備の設置が条例によって禁止されているという。この地域と秋田県の意識の差があまりにも大きいことに驚く。
 風車の設置基数が全国1位など、けっして誇れることではないはずだ。電気不足で困っているわけではないし、妥協点をどこに設定するか難しい点もあるが、より生活環境に配慮しながら慎重にすすめてほしいものである。
 ところで、あのポルトガルの現状はどうなのであろうか、少々気になるところである。 (2018/05)
 
 
<2018.5.17>
 

人家に迫る風車群/由利本荘市西目町海士剥[あまはぎ]地区(荘司昭夫氏提供)

鳥海山を背景に建ち並ぶ風車たち/由利本荘市西目町出戸(荘司昭夫氏提供)

仁賀保高原に乱立する風車たち/にかほ市(荘司昭夫氏提供)

由利本荘市沖洋上風力発電事業(秋田由利本荘洋上風力合同会社 公開資料より)

「風の王国プロジェクト」イメージ写真(同プロジェクトHPより)

いま、思うこと

第1〜10回LinkIcon 
 第1回:反原発メモ
 第2回:壊れゆくもの
 第3回:おしりの気持ち。
 第4回:ミスター・ボージャングル Mr.Bojangles
 第5回:病、そして生きること
 第6回:沖縄を思う
 第7回:原発ゼロは可能か?
 第8回:ぼくの日本国憲法メモ ①
 第9回:2013年7月4日、JR福島駅駅前広場にて
 第10回:ぼくの日本国憲法メモ ②

  
第11〜20回LinkIcon
 第11回:福島第一原発、高濃度汚染水流出をめぐって
 第12回:黎明期の近代オリンピック
 第13回:お沖縄県国頭郡東村高江
 第14回:戦争のつくりかた
 第15回:靖国参拝をめぐって
 第16回:東京都知事選挙、脱原発派の分裂
 第17回:沖縄の闘い

 第18回:あの日から3年過ぎて
 第19回:東京は本当に安全か?
 第20回:奮闘する名護市長

第21〜30回
LinkIcon
 第21回:民主主義が生きる小さな町
 第22回:書き換えられる歴史
 第23回:「ねじれ」解消の果てに
 第24回:琉球処分・沖縄戦再び
 第25回:鎮霊社のこと
 第26回:辺野古、その後
 第27回:あの「トモダチ」は、いま
 第28回:翁長知事、承認撤回宣言を!
 第29回:「みっともない憲法」を守る
 第30回:沖縄よどこへ行く
  
第31〜40回LinkIcon
 第31回:生涯一裁判官
 第32回:IAEA最終報告書
 第33回:安倍政権と言論の自由
 第34回:戦後70年全国調査に思う
 第35回:世界は見ている──日本の歩む道
 第36回:自己決定権? 先住民族?
 第37回:イヤな動き
 第38回:外務省沖縄出張事務所と沖縄大使
 第39回:原発の行方
 第40回:戦争反対のひと

第41〜50回  LinkIcon
 第41回:寺離れ
 第42回:もうひとつの「日本死ね!」 
 第43回:表現の自由、国連特別報告者の公式訪問
 第44回G7とオバマ大統領の広島訪問の陰で
 第45回:バーニー・サンダース氏の闘い 
 第46回:『帰ってきたヒトラー』
 第47回:沖縄の抵抗は、まだつづく 
 第48回:怖いものなしの安倍政権
 第49回:権力に狙われたふたり 
 第50回:入れ替えられた9条の提案者 
 第51~60LinkIcon
    第51回:ゲームは終わり
 第52回:原発事故の教訓
 第53回:まだ続く沖縄の闘い 
 第54回:那須岳の雪崩事故について
 第55回:沖縄の平和主義
 第56回:国連から心配される日本
 第57回:人権と司法
 第58回:朝鮮学校をめぐって
 第59回:沖縄とニッポン
 第60回:衆議院議員選挙の陰で

第61回:幻想としての核LinkIcon 

第62回:慰安婦像をめぐる愚LinkIcon

第63回:沖縄と基地の島グアムLinkIcon

第64回:本当に築地市場を移転させるのか?LinkIcon

第65回:放射能汚染と付き合うLinkIcon 

第66回:軍事基地化すすむ日本列島LinkIcon 

第67回:再生可能エネルギーの行方LinkIcon 

第68回:活断層と辺野古新基地LinkIcon 

第69回:防災より武器の安倍政権LinkIcon 

第70回:潮待ち茶屋LinkIcon 

第71回:日米地位協定と沖縄県知事選挙LinkIcon 

第72回:沖縄県知事選挙を終えてLinkIcon 

第73回:築地へ帰ろう!LinkIcon 

第74回:辺野古を守れ!LinkIcon 

第75回:豊洲市場の新たな疑惑LinkIcon 

第76回:沖縄県民投票をめぐってLinkIcon 

第77回:豊洲市場、その後LinkIcon

第78回:元号騒ぎのなかでLinkIcon 

第79回:安全には自信のない日本産食品LinkIcon 

第80回:負の遺産の行方LinkIcon 

第81回:外交の安倍!?LinkIcon 

第82回:「2020年 東京五輪・パラリンピック」中止勧告LinkIcon 

第83回:韓国に100%の理LinkIcon 

第84回:昭和天皇「拝謁記」をめぐってLinkIcon 

第85回:濁流に思うLinkIcon 

第86回:地球温暖化をめぐってLinkIcon 

第87回:馬毛島買収をめぐってLinkIcon 

第88回:原発と裁判官LinkIcon 

第89回:新型コロナウイルスをめぐってLinkIcon 

第90回:動きはじめた検察LinkIcon 

第91回:検察庁法改正案をめぐってLinkIcon 

第92回:Black Lives Matter運動をめぐってLinkIcon 

第93回:検察の裏切りLinkIcon 

第94回:沖縄を襲った新型コロナウイルスLinkIcon 

第95回:和歌山モデルLinkIcon 

第96回:「グループインタビュー」の異様さLinkIcon 

第97回:菅政権と沖縄LinkIcon 

第98回:北海道旭川市、吉田病院LinkIcon 

第99回:馬毛島買収、その後LinkIcon 

  

第100回:殺してはいけなかった!LinkIcon 

第101回:地震と原発LinkIcon

第102回:原発ゼロの夢LinkIcon 

第103回:新型コロナワクチンLinkIcon 

第104回:新型コロナワクチン接種の憂鬱LinkIcon 

第105回:さらば! Dirty OlympicsLinkIcon 

第106回:リニア中央新幹線LinkIcon

第107回:新型コロナウイルスをめぐってLinkIcon 

第108回:当たり前の政治LinkIcon 

第109回:中国をめぐってLinkIcon 

第110回:したたかな外交LinkIcon

第111回:「認諾」とは?LinkIcon 

第112回:「佐渡島の金山」、世界文化遺産へ推薦書提出LinkIcon

第113回:悲痛なウクライナ市民LinkIcon 

第114回:揺れ動く世界LinkIcon 

第115回:老いるLinkIcon

第116回:マハティール・インタビューLinkIcon 

第117回:安倍晋三氏の死をめぐってLinkIcon

第118回:ペロシ下院議長 訪台をめぐってLinkIcon 

第119回:ウクライナ戦争をめぐってLinkIcon 

第120回:台湾有事をめぐってLinkIcon 

第121回:マイナンバーカードをめぐってLinkIcon 

第122回:戦争の時代へLinkIcon

第123回:ウクライナ、そして日本LinkIcon 

第124回:世襲政治家天国LinkIcon 

第125回:原発回帰へLinkIcon 

第126回:沖縄県の自主外交LinkIcon 

第127回:衆参補選・統一地方選挙LinkIcon 

第128回:南鳥島案の行方LinkIcon 

第129回:かつて死刑廃止国だった日本LinkIcon 

第130回:使用済み核燃料はどこへ?LinkIcon 

第131回:ALPS処理水の海洋放出騒ぎに思うLinkIcon 

第132回:ウクライナ支援疲れLinkIcon 

第133回:辺野古の行方LinkIcon 

第134回:ドイツの苦悩LinkIcon 

第135回:能登半島地震と原発LinkIcon 

第136回:朝鮮人労働者追悼碑撤去LinkIcon 

第137回:終わりのみえない戦争LinkIcon

第138回:リニア中央新幹線と川勝騒動LinkIcon

工藤茂(くどう・しげる)

1952年秋田県生まれ。
フリーランス編集者。
15歳より50歳ごろまで、山登りに親しむ。ときおりインターネットサイト「三好まき子の山の文庫」に執筆しているが、このところサボり気味。

工藤茂さんの<ある日の「山日記」から>が読めます。LinkIcon