いま、思うこと〜提言・直言・雑感〜 工藤茂

第160回:選挙を終え、未知の世界へ

 衆議院議員選挙投票日を約1週間後にひかえた1月31日、「世に倦む日日」氏のXに次のような文言があった。
 「世代が上にいくほど政治的に正常で、世代が下にいくほど毒悪でファシズム脳に染まって歪んでいる。知性と理性が劣化し薄弱化している(一般論としてそれは言えるはず)。その者たちの投票で政治が決まる。その世代が親の世代になり、子の世代を教育する。年寄りの世代は消える。どんな社会になるのか」
 人前で大きな声で言える内容ではないが、まったくそのとおりと納得したものだ。同氏のXはさらに続いて、そんなファシズムの時代もいずれ終わるが元に戻るわけではなく、さらに過酷で悲惨な時代になるはずと記されていた。
 気が重くなりながらも、でもまだどう転ぶかわからないと思い直した。
 
 そういえば、アメリカの科学者らが公表した「世界終末時計」は、残り時間が最も少なくなった昨年よりもさらに4秒進み、公表を始めた1947年以降で最短となる85秒としたという。わずか1分25秒である。終末へとひた走ることになるのかと不安を覚えた。
 そして、評論家杉田俊介氏のX(同年2月2日付)を目にし、さらに終末感が増す。
 「今度ばかりは、ぎりぎり持ち堪えていた日本の民主主義の底が抜けて、奈落の底に堕ちるだろう、という気持ちを流石にどうにもできない。多くの国民がそれを欲望しているのだ。米や韓国と違い、独裁や全体主義を押し返す力をこの国の民衆は持たない。問題は真の破局がいかなる未知の形で訪れるか、だろう」
 たしかに、それが具体的にどういう形で現れるのか見当がつかないのだ。
  
 投票日3日前の2月5日、アメリカのトランプ大統領はSNSで、高市早苗連立政権の全面支持を表明した。これには驚いた。まともなことではない。内政干渉、選挙介入であることは明らかで、フランスのジャーナリスト西村カリン氏は、これを「異例」と報道した日本のメディアを「『異常』と報じないのはおかしい」と批判した(同年2月7日付X)。そしてBBCは、トランプ、高市両氏のツーショット写真とともに全世界に向けて報じた。
 トランプ氏は高市首相を上手く利用できそうな奴と踏んだのだ。西村氏によれば、これまでトランプ氏に支持された首脳たちは、アルゼンチンのミレイ大統領、ハンガリーのオルバン首相など、法の支配を無視する民主主義の破壊者ばかりだという。
 トランプ氏の支持など迷惑でしかないはずだが、高市氏本人は喜んだのであろう。側近たちは朗報として拡散させたという。
 それにしても中国の習近平氏へ接近しつつ、同氏が嫌がる高市氏支持を公表するトランプ氏の心中は窺い知れない。加えて昨年末には台湾への武器売却承認という報道もあった(近々最終決着)。習氏もトランプ氏を心底信頼しているわけではないだろうが、隙間風が少々冷たくなりそうだ。
 ところで高市首相が習氏との対立を深めているのに対して、スペイン国王、マクロン仏大統領、アイルランド首相、韓国の李在明大統領、カナダのカーニー首相、フィンランド首相、英スターマー首相などの各国首脳が相次いで訪中し、アメリカとの距離をおきはじめている。政治体制の異なる国とはいえ、中国と対立することにメリットはない。とくに隣国の日本はなおのこと。いまアメリカと日本が主要国のなかで孤立しつつあることに気づくべきだ。
 
 投票日の2月8日の都内は朝から本格的な雪だった。ようやく降りやんだ昼過ぎ、雪を踏みながら投票所へと赴く。行列はなかったものの、途切れることなくやって来る人に混じって一票を投じてきた。
 雪国では雪かきなどのために投票開始時間が2時間も遅れたところもあり、同様に雪の降った鳥取県の投票率は前回の衆院選(2024年)よりも10%以上低かったという。
 夜のテレビの選挙特番では、自民党の得票がぐんぐん伸びていくのを観てよからぬものを感じたが、そんなバカなと思いながら床についた。そして一夜明けて驚いた。自民党は結党以来最多の316議席を獲得し、護憲派議員の多くが姿を消していた。加えて革新系の強かった沖縄県では4選挙区ともすべて自民党圧勝で、復帰以降初めての出来事だという。高市首相は一か八かの解散に打って出て見事に勝ったのだ。
 どうやら、世に倦む日日、杉田俊介両氏が示唆した破局、悲惨な時代が現実のものになりそうだ。少し前、辺見庸氏は次のように記していた(同年2月4日付ブログ)。
 「人民大衆は何処までも堕ちることができる。高揚し眼を輝かせ歓声をあげて堕ちていく」
 辺見氏は今回の投票はボイコットすることにしていたのだが、2日前になって急遽車椅子で期日前投票に出かけたという。
 高市氏に対する圧倒的な支持に習氏も困惑したはずだ。ただ自らの強硬姿勢が逆に日本の有権者の反発を招いたことも認識しているようで、「発言の撤回を求める」以上のことはできかねているようだ。
 
 投票日翌日の夕方、記者会見にのぞんだ高市首相は、選挙期間中にはあまり口にしなかった憲法改正挑戦を表明した。憲法改正は衆参各院で3分の2以上の賛成で発議可能になる。今回の選挙で自民党は単独で衆議院の3分の2以上を確保したが、ひとつの政党による単独3分の2以上の確保は戦後初の出来事。参議院では少数派とはいえ日本維新の会、国民民主党、参政党、日本保守党などの保守勢力を結集、チームみらい1議席も加わって3分の2に迫る数になる。
 3月のトランプ氏との会談で憲法改正を命じられて自衛隊の明記をはじめ、アメリカの望む軍備拡大、戦争のできる国へと突き進みそうだ。憲法99条で国務大臣・国会議員などの憲法擁護義務を負わせているが、安倍晋三政権でも憲法無視など当たり前のことだった。
 2月18日に特別国会が招集され第二次高市内閣が発足、国会審議が始まる。最新の世論調査(産経新聞+FNN合同)では高市内閣支持72%、不支持22.8%、憲法改正準備賛成67.1%、反対25.2%である。不支持・反対があまりにも少ない。
 いよいよ民主主義の底が抜けて暴走が始まるのであろうか。1970年代半ばに社会に出て以来、体験したことのない世界だ。いよいよ未知の世界が始まる。食い止めようにも手立てがない。政権の財政政策が市場の反発にあい引きずり降ろされることを期待するくらいであろうか。
 すでに自分がすでに高齢者と呼ばれる年齢であることが唯一の救いだが、早く死んだほうがよさそうだ。 (2026年2月)


<2026.2.19> 

高市首相とトランプ大統領(2025年10月28日、米海軍横須賀基地にて「Wikipedia」より)

いま、思うこと

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工藤茂(くどう・しげる)

1952年秋田県生まれ。
フリーランス編集者。
15歳より50歳ごろまで、山登りに親しむ。ときおりインターネットサイト「三好まき子の山の文庫」に執筆しているが、このところサボり気味。

工藤茂さんの<ある日の「山日記」から>が読めます。LinkIcon