いま、思うこと〜提言・直言・雑感〜 工藤茂

第163回:イラン情勢と原油危機

 原油が足りないという。すべてアメリカとイスラエルによる一方的なイラン攻撃に端を発したことだ。イランの対抗措置、ホルムズ海峡封鎖により中東原油の輸送が止まり、世界中が原油の供給不足、価格高騰に陥ってしまった。
 その原油不足がじわじわと我々の生活を脅かしはじめてきた。給水設備用の塩ビパイプの不足、ユニットバスの受注停止、さらにスナック菓子メーカー、カルビーはポテトチップスなどの包装を白黒の2色にするという。そういえば、我が家でいつも食べている納豆も販売休止となり、やむなく別の納豆に切り換えることになった。
 これらはすべて原油から精製されるナフサを原料とする製品の影響で、ここに並べたものはほんの一例にすぎない。さらに、この夏にはナフサ関連製造業の倒産急増という報道まであった。
 しかし、政府はそんな状況を認めようとはしない。流通の目詰まりが起きているにすぎないというが、その目詰まり自体が異常事態なのだ。いずれにせよ、現場感覚と政府の受け止めには大きな開きがあることは間違いないようだ。
 
 4月6日の参議院予算委員会にて、立憲民主党の小西洋之氏は「日本が中東和平の主体的な仲介役を」と高市早苗首相に提案したのだが、高市氏の答弁は次のような中途半端なものだった。
 「どこで、どういうタイミングで首脳間の会談ができるか、ここでつまびらかにすることはできないし確定しているものもないが、できる限りのことをやってまいります」
 このやりとりを注視していたのが駐日イラン大使のペイマン・セアダット氏である。同氏は小西氏に面会を申し込み、4月18日に両氏は会談。中東情勢、国際関係について1時間以上懇談したという。セアダット氏の話は次のようなものだった。
 「日本はイランと友好関係、アメリカとは同盟関係にあって、ヨーロッパ諸国とは異なる関係性にあり、和平仲介に重要な役割を果たせる立場にある。それは現在の仲介国であるパキスタンを支援することにもなる。また、電話による両国の首脳会談、外相会談にて、個別協議によって日本のタンカーのホルムズ海峡航行は可能であると伝えてある」
 
 茂木敏充外相とイランのアラグチ外相は、3月だけでも複数回の電話会談を行っているうえ、3月26日には自民党の「日・イラン友好議員連盟」(会長=岸田文雄元首相)はセアダット氏を招いて会合を開いている。イラン側の考えはすべて日本政府・自民党側には伝えているにもかかわらず、その内容は公にされず、詳しく報道されることもない。野党議員たちも国民も知ることはできなかった。セアダット氏は日本国内の状況に危機感を覚え、慌てて小西氏に面会を求めたのだ。
 さらに小西、セアダット会談3日後の4月21日の参議院内閣委員会。立憲民主党の杉尾秀哉議員がセアダット氏から伝えられたことを政府側にただしたところ、答弁に立った外務省職員は「把握していないので、コメントは控える」と応じる有様である。
 政府・自民党がイラン側の考えを完全に封殺し、報道させなかったのであろう。答弁に立った外務省職員が知っていたかどうかは不明だが、政府が伏せている事柄を一官僚が明らかにすることはできるはずもなかった。
 
 5月11日、鳩山由紀夫元総理、川内博史前衆議院議員ら6名が駐日イラン大使館を訪問、セアダット氏と1時間半ほど面談した。以下はその内容である。
 「日本政府からは日本の船を包括的に通してくれるように要望されているが、今はアメリカに攻撃を受けている状態であって難しい。敵国以外の船舶として通過するためには、個別の船ごとに要請してもらえれば、必要な配慮ができるかどうか検討することになる」
 ここで初めて気づいたのだが、ポイントは「個別」にあった。
 ホルムズ海峡の幅は狭く、全体がイランとオマーンどちらかの領海であり公海はない。国際海峡とされているが、それは国連海洋法条約批准が前提となる。批准国オマーン領海内だけでは地形上の問題から航行は難しく、批准していないイランは慣例上平時の安全航行を認めてきた。しかし戦時となった今、イランが自国防衛のためやむを得ず領海を封鎖している。これが現在の状況である。日本政府は日本の船舶をすべて通してほしいと要望したが、イラン側は敵国以外の船の航行は認めるが、判別が難しいので個別に要請してほしいと言っているのだ。
 4月末、タンカー出光丸(200万バレル積載)がホルムズ海峡を通過したが、日本政府も支援したことを主張している。正確なところはよくわからないが、その後も続々と通過しているわけではないことは事実だ。5月14日午前、ENEОS系タンカー(190万バレル積載)が通過という報道があったが、出光丸通過から2週間以上も過ぎている。いずれにせよ、日本政府はイランとの個別協議よりも代替調達先の開拓に熱心なように見受けられる。
 ところで、出光丸が運んだ200万バレルという量の原油は、日本の原油消費量のおよそ1日分弱という。我々の生活は、このような大型タンカーが毎日入港しなくては成り立たないのだ。恥ずかしながら、今回の原油危機によって初めて知った大事なことの一つである。
 
 駐日イラン大使のセアダット氏は昨年7月、今年3月と、2回にわたって『長周新聞』の単独インタビューを受けている。今年3月24日のインタビュー(2026年4月3日掲載)から、我が国に関わる部分を紹介しておきたい。筆者の責任でまとめた。
 「(訪米した日本の高市首相はトランプ氏を称賛し、他のヨーロッパ5カ国とともにイランのみを非難する決議に署名したが、)それでもイランと日本は1000年以上にわたる友好関係にあること、イランにとって日本との関係は非常に重要であり、信頼に値する国と考えている。それは政府レベル、市民レベルすべてを包含したものだ。
 日本政府に期待したいことはある。とくに国際法、国連憲章に違反するこの軍事侵略を非難してもらいたい。また、不当な戦争を完全に終結させるうえで建設的な役割りを果たしてくれることだ。もちろん、それができないからといって直ちに両国関係が損なわれるわけではない。
 日本の市民社会において、アメリカ、イスラエルによる侵略戦争に反対する素晴らしい活動が各地で行われているのをSNSで見てきた。軍事侵略を非難し、抗議する行動が連日のように行われていることに感銘を受けている。また世論調査においても82%の人々が対イラン戦争に反対している。
 これらのことは2国間関係の歴史において、イランの人々の脳裏に刻まれ決して消えることはない。イラン国民が極めて厳しい環境にあるなかにおいて、これほどまでにイランの人々との連帯の心を示してくださったことに感謝している。
 次回インタビューを受ける際にはこの戦争が収束し、平和が訪れていることを願っている」
 
 重ねて記しておくが、このインタビューは3月24日に行われたものであり、残念なことに、日本政府・自民党がイラン側の考えを封殺していたことについての見解は含まれていない。
 それにしても愚かな戦争を始めたものである。5月14〜15日に習近平国家首席とトランプ大統領の会談が行われたが、せめて習氏には即座に戦争を終結させるようトランプ氏に迫ってもらいたかった。 (2026/05)                           
 

 
<2026.5.16> 

ホルムズ海峡を通過した出光丸(出光タンカーHPより)

いま、思うこと

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 第10回:ぼくの日本国憲法メモ ②

  
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工藤茂(くどう・しげる)

1952年秋田県生まれ。
フリーランス編集者。
15歳より50歳ごろまで、山登りに親しむ。ときおりインターネットサイト「三好まき子の山の文庫」に執筆しているが、このところサボり気味。

工藤茂さんの<ある日の「山日記」から>が読めます。LinkIcon